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ママネットによるインフルエンザの集団発生対策

「厚労省よりも保険所よりも、お母さんのネットワークのほうが、ずっと頼りになるよね。」
「いっそのこと、お母さんたちにtwitter使ってもらったほうが、役所よりも役に立つんじゃない?」
先日、子供の患者を多く診ている医者仲間同士で呑んでいて、誰とはなしに言い出した。
何の話かというとインフルエンザのクラスターサーベイランスの話。

今年7月、厚生労働省から新型インフルエンザの届出基準についての改正省令が公布された。
内容は、新型インフルエンザ患者の全数把握を終了して、今後は集団発生の調査(クラスターサーベイランス)を行うというものだった。

とはいえ、その時点より2ヶ月以上前の5月半ばの時点で、とっくに医療現場では新型インフルエンザの全数把握なんてできなくなっていた。そのころには、「らしい」患者について保険所に届け出ても、
「季節性の通常のインフルエンザとして対応してください」
って回答しか帰ってこなくなった。
すでに保険所も体力の限界に達していたのだ。

だから、その時点で、全数把握なんてのは、すでに厚労省の大本営発表の中にしか存在しないものになっていた。

7月の時点で、ようやく全数把握は無理だったと現状を追認した厚労省大本営がかわりに打ち出したのが、集団調査(クラスターサーベイランス)。

これは、インフルエンザ患者を一人一人を把握できなくても、せめてインフルエンザが集団で発生した場合だけでも早期に把握して対策をとろうというもの。
医療機関には、インフルエンザの集団発生が起きた地域や集団について、保険所から早い段階で連絡が入るということになった。

でも、この新体制ってのが、グダグダすぎて、さっぱり役に立たない代物。

いまのところ、新型インフルエンザの患者のほとんどは学校に通っている子供なので、集団発生というと、要するに
「どの学校の生徒の間で、どれくらい流行っているか」
または、
「今後、どの学校で流行しそうか」
という話が早くにわかればうれしいわけだ。
そういう話が現場の医者に早く伝われば、そういった事前情報を手がかりにして、より正確に診断できるようになる。それに、子供たちにも、そのお母さんたちにも早めに注意を喚起することができる。

でも、この保険所から入ってくる情報ってのが、これが情報が遅すぎて役に立たない。

それもそのはず、この情報、
学校で流行した場合、
学校のクラスで流行 -> 担任の先生が流行に気がつく -> 校長の名前で教育委員会に報告 -> 教育委員会から保険所に連絡 -> 保険所から各医療機関に通知
とかいうダラダラしたルートで伝わってくるもので、とても、「早期の連絡」とはいかないのだ。

では、早期のうちにインフルエンザの集団発生を知ることはできないのか?

保険所からの流行通知にかわって、多くの医者が必然的に採用するに至ったのが、ママネットワークからの流行通知である。

「先生、Dくんのお母さんから聞いたんですけれど、M小学校で、インフルエンザの患者が増えているらしいんですよ。」
「うちの子が通っているピアノ教室、M小学校の子が多いのよ。心配だから、休ませようかと思っているんですけど。」

「先生、この子の熱、インフルエンザじゃないでしょうか?調べてもらえませんか?」
「K小学校の、うちの子のクラスでは、駅前の学習塾に通っている子がいっぱいいるんです。ホラ、あの学習塾に通っている子って、ほとんどM小学校でしょう?だからM小学校の次は、きっとK小学校で流行るんじゃないかと思うんですよ。それに、今日、その塾に通っている子が二人、学校休んだらしいんですよ。イエ、その子達がインフルエンザかどうかは聞いてないんですけれど。」

役所からの情報に期待できない我々としては、過剰な心配をしているママたちをなだめつつ、どこで、どれくらいインフルエンザが流行しているのかの情報と、さらに、次はどこで流行しそうなのかの予想を入手するわけだ。

このママたちのネットワークの情報と予想が馬鹿にならない。
お役所の通知よりも圧倒的に早くて、しかも、かなり正確なのである。

お母さんたちの中には、一定数の、教育熱心な、いわゆる教育ママがいて、そういう人たちは、常に、同じような教育ママたちと、情報を交換し合っている。それは、たとえば、良い先生がいて月謝が安い塾はどこなのか、どの塾にどういう子が通っているのか、そういう情報。彼女たちの頭の中では、教育というのは、そういった情報戦なのである。

その彼女たちは、子供たちが学校や塾を通じて形成するネットワークのクラスターを正確に把握しており、また、彼女たち自身が今回のインフルエンザ流行についてのウワサを伝える地域の人的ネットワークのハブでもある。
彼女たちの情報力をナメてはいけない。

お役所ごときが勝てる相手ではないのだ。

そういうわけで、彼女らのネットワークの伝える情報を可視化できたならば、ひょっとしたら、厚生労働省のクラスターサーベイランスなどより遥かに便利なママネットワークによるクラスターサーベイランスができるのではないかと、彼女らの情報に頼りきっている我々は、焼酎水割りを片手に語り合ったのであった。

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